バーズアイが似合うおっさんに

仕立て屋ブログ お仕立て日和 「バーズアイが似合うおっさんに」 バーズアイで仕立てたオーダースーツ
仕立て屋ブログ お仕立て日和 「バーズアイが似合うおっさんに」

随分昔の話だ。
20代後半の僕は、ひょんなことからテーラーの門を叩くこととなった。

それまでテキスタイルの勉強をしていた僕は、大好きな生地を本場で見てみたくて、アイルランドやスコットランドを巡っていた。

日本に帰ってきてから、生地屋さんで働くという選択肢もあったのだけれど、元来、人と話すのが好きだったということもあって、生地から仕立てるテーラー(仕立て屋)はどうかと思ったわけだ。しかも銀座のテーラーだ。

その頃の僕は、スーツのスの字も分からない素人同然。ネクタイの締め方も、今思えばめちゃくちゃだったに違いない。どうして採用されたのかは未だに分からないのだけれど、運が良かったのだろう。

そのテーラーは、イタリアンクラシコのスーツを得意とするテーラーで、大人の隠れ家と言わんばかりの雰囲気があり、銀座の紳士達が多く顧客にはいた。

なので、今の僕があるのも、その時の店長とお客様に育ててもらったからと言っても過言ではない。

確か、秋冬のコレクションのことだと思う。
店内には、お客様との接客時により分かり易い様に、幾つか出来上がったスーツのサンプルが置いてあるのだけれど、その中で気になるスーツがあった。

他のスーツに比べて、控え目でパッとしない生地に逆に目を奪われたわけだ。

店長に、「この生地はなんですか?」と聞くと、「バーズアイだ」、「柄が鳥の目の様に見えるだろ」と。

ブルーとネイビーの混色で織られたバーズアイと呼ばれる生地は、一見地味ではあるが、動きが加わると光沢が生まれ、その時の僕には、実にエレガントに見えた。

間髪入れずに店長は、「バーズアイは、おまえにはまだ早いからやめておけ」と。

随分後になって、その時の言葉の意味を理解出来た。
バーズアイのスーツは、どうしても落ち着いた雰囲気が出てしまう。悪く言えば、つまりオジサン臭い感じになってしまうのだ。

「バーズアイのスーツ」、いつかは作りたいと心に思っていたけれど、すっかり忘れていた。

先日、徳島からお客様がいらしてくれた。
銀座のテーラー時代からのお客様で、かれこれ5,6年はお会いしていなかったのだけど、フォーボタンズを開業する案内を送ると、すぐにご連絡を頂けた。

久しぶりに会うそのお客様と話をしているうちに、初めて出会ってから13年も経つことが分かった。
おそらく銀座のテーラーに務めて1,2年目のことだと思う。
まだまだ勉強中だった僕から、初めてのオーダースーツを注文し嬉しかったと有り難いお言葉を頂いた。

なんでも、結婚式に出席する機会が増え、年齢的にも、少し大人っぽいスーツを誂えたいのだとか。

当初、僕の方では汎用性の高い光沢感があるブラックスーツはどうかとご提案してみたのけれど、お客様の方から、「ネイビーのダブルのスーツを考えていているんですが、何か落ち着いていて素材感がある生地ないですかね」と。

その時、心の中ですっかり忘れさられていた、あのバーズアイの記憶が蘇ってきたわけだ。

僕たちもすっかり年を取ったし、そろそろバーズアイのスーツを選んだって、あの時の店長だって許してくれるだろう。

お客様と綿密に相談し、ネイビーの色味やダブルのサイズ感など、落ち着いた雰囲気は出るけどオジサンにはならないバーズアイのスーツが完成したのが、冒頭の写真だ。

後日、お客様より、「このスーツが似合うおっさんになれるよう、精進します!」と連絡を頂いた。

そう、オジサンではなく、おっさんだ。
前向きにバーズアイのスーツを楽しむおっさんに、オジサン臭さは微塵も感じない。
「バーズアイのスーツが似合うおっさん」、すごく良いではないか。

いつか僕も、そんなおっさんになれるのだろうか。
もう暫くは、バーズアイはお預けだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA