スーツは、長い時間を掛けて完成された形ゆえに、普遍的なデザインであり、ファッションの流れの中でも大きな変化が起こり難い。
だからこそ、世界中のあらゆる地域と人種を問わず広く着用されている訳だ。
僕がスーツを考える上で一番大事にしていることは、そのサイズ感だ。
どんな上質な生地を使っても、どんな素晴らしい技術の仕立てであっても、どんな有名なブランドのものであっても、その人の身体に合ったサイズでなければ、スーツの美しさは台無しとなってしまうだろう。
上着に関して言えば、男性的な逆三角形のシルエットを目指して着心地の良いフィッティングを心掛けているつもりだ。
シャツの衿から肩を滑らかに通り袖へと流れるラインや、胸元のボリューム感、程よく絞りの効いたウエストシェイプなど、数値には表せない視覚的な美意識の仕掛けを駆使して、その人の身体に合った美しいスーツを作っていく訳だ。
ただ、いつもいつも忘れてはならないのが、そのスーツを着る主のことだ。
今回ご注文頂いたのは、仕事でご使用されるビジネススーツ。
一口でビジネススーツと言っても千差万別だ。
仕事によっては、世界中を飛び回ることもあるだろうし、一日中取引先を回ることもあるだろう、もしかしたら、デスクワークが中心になる方もいるだろう。
スーツのご注文に際しては、毎度詳しくカウンセリングをさせて頂いている。
カウンセリングと言っても、僕の場合気難しいものではなく世間話の延長線上で、その方がお客様の引き出しを開き易い場合が多い。
今回の場合もこうだ。
「内ポケットに荷物を入れることが多いんだけど、荷物が嵩張っちゃって膨らんじゃうからウエストはゆったりめでいいよ」。
お客様によると、内ポケットにはスマートフォンを入れ、ペンポケットにペンを入れると、どうしても重なりが出てしまいシルエットに響いてしまうとのこと。
せっかく絞りを効かせたウエストラインもこれでは逆効果となってしまうだろう…。
ということで、一つご提案させて頂いたのが、冒頭の写真だ。
本来、重なり合ってしまう内ポケットとペンポケットの配置をずらしてあげることで、ウエストラインに生じる野暮ったい膨らみを解消することにしてみた。
出来上がってみると、実用面においても、シルエット面においても随分と具合の良いスーツが出来上がった。
僕たち仕立て屋は、時に美しさばかりを追い求めて強要しがちだが。“着心地の良さ”とは、実用面においてもスマートでなくてはならいないと思う。
今回のお仕立ても、大変良い勉強をさせて頂いた。
吉祥寺の仕立て屋 オーダースーツのFOUR BUTTONS(フォーボタンズ)
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