「僕は、スーツが嫌いです」。
誤解のない様に、もう少し正確に言うと、「スーツを着て偉ぶっている人が、僕は嫌いです」。
どういう訳か、スーツには不思議な力が存在し、着ると背筋が伸び、“大人になった”、“偉くなった”とついつい勘違いをしてしまうものです。
しかし、子供の頃に読んだ物語にもあった様に、魔法が解けてしまったら元の自分に戻ってしまうのです。
残念ながら、僕たちが作るスーツは、偉ぶる為のスーツではないので、袖を通してもその効き目はありません。僕たちの出来ることと言えば、正確に身の丈に合ったスーツを作ることくらいなのです。
もちろん仕立て屋ですから当然ですが…。
ありのままの自分を表現するスーツしか作れませんが、お客様と一緒になって悩んで、考えて、勉強していきたいと思っています。
“洋服よりも、本当に大切なことを知っている人たちに…”。
そんな想いを胸に、FOUR BUTTONSはあり続けていきたいと思っております。
― FOUR BUTTONSとは ―
僕が、この業界に入った時(それこそ、スーツのスの字も分からない頃ですが)、スーツの袖に付いている4つの重なった釦に興味というか、疑問を感じたのをよく覚えています。
他のどの洋服を見返しても、釦が重なっていることはありません。
というより、釦の用途を考えたら、釦が重なっている理由がないのです。留めにくいし、外しにくいですからね。
袖の釦について、ある人は、「その昔、お医者さんが手を消毒する時に、袖をまくりやすくする為に釦が付いていたんだよ」と蘊蓄を語り。
ある人は、「袖口が本切羽になっているのは、あらかじめ袖の長さを測ってから作るオーダーメイドならではのステータスなんだよ」と自慢げに話し。
また、ある人は、「袖の釦を1個か2個、わざと外しておくのが、洒落てていいだろ」と格好つけて言いました。
たかだか袖の釦に、ずいぶんと想いが詰まっているんだなと、思った記憶があります。
オーダーメイドとは、一見、その他大勢の人から見たら、どうでもいいことを、“ああだ、こうだ”と自分なりの想いや、思想や、価値観や、こだわりで作り上げていくものだと思っています。
その“どうでもいいこと”を、お店の名前にしたくて、あの時感じた想いを、「FOUR BUTTONS フォーボタンズ」という名前で表現してみました。
よく、「スーツのスタイルはブリティッシュですか?イタリアンですか?」 と聞かれますが、僕たちはそこにあまり重きを置いていません。
英国や、イタリアなど、ヨーロッパから仕入れるインポートの生地を使い、日本人が採寸し、国内のファクトリー(なかにはアジア各地からの研修で来ている縫製工員もいるかもしれません)で、完成するスーツを、様式がブリティッシュか、イタリアンかなどと論じることに意味を感じないからです。
それよりも、僕たちは、あなた自身に魅力を感じ、興味があります。
スーツを着る中心にいるあなたこそが、なにものにも替え難い、オリジナルのスタイルだと考えています。
トレンドや流行のスタイルに左右されるのではなく、自分らしく、個性的で、こだわりのあるスーツスタイルのお手伝いをさせて頂きたいと思っております。それこそが仕立て屋で誂える本当の価値ではないでしょうか。
是非、あなたの、“ああだ、こうだ”、“どうでもいいこと”をお聞かせ下さい。
FOUR BUTTONS 垣本 数馬